肩や首の慢性的なこりや痛みに悩まされている人が、同時にふらつきを感じることは珍しくありません。このような場合、「このふらつきは首から来ているのではないか」と考え、「整形外科」を受診すべきか迷うことがあるでしょう。実際に、首周りの異常がふらつきの原因となることはあり、これは「頸性(けいせい)めまい」と呼ばれています。頸性めまいが起こるメカニズムはいくつか考えられています。一つは、首の筋肉の異常な緊張が、首にある位置覚センサー(固有受容器)の働きを狂わせ、脳に誤った体の位置情報を送ってしまうことで、平衡感覚にズレが生じるという説です。長時間のデスクワークやスマホ操作による不良姿勢が、首の筋肉に過度な負担をかけ、この状態を引き起こすことがあります。ふらつきと共に、首のこりや痛み、頭痛、頭重感などを伴うのが特徴です。また、加齢によって首の骨(頸椎)が変形する「変形性頸椎症」や、「頸椎椎間板ヘルニア」なども、ふらつきの原因となり得ます。これらは、首の骨の中を通る神経や、椎骨動脈という脳に血液を送る重要な血管を圧迫することで、めまいやふらつき、手足のしびれなどを引き起こすことがあります。特に、首を上に向ける、あるいは特定の方向に回すといった動作でふらつきが悪化する場合は、頸椎の異常が関与している可能性が考えられます。整形外科では、まずレントゲンやMRIといった画像検査を行い、頸椎の骨や椎間板、神経の状態を詳しく評価します。そして、頸椎に明らかな異常が見つかれば、それに対する治療(薬物療法、リハビリテーション、神経ブロックなど)が行われます。しかし、注意が必要なのは、首のこりや痛みを伴うふらつきの全てが整形外科の領域とは限らない点です。高血圧や自律神経の乱れが、首のこりとふらつきの両方を引き起こしている場合もあります。したがって、まずは整形外科で首の状態を調べてもらい、そこに明らかな原因が見つからない場合は、内科や耳鼻咽喉科など、他の診療科での評価も視野に入れる必要があります。