マイコプラズマ感染症は、多くの場合、気管支炎の形で経過しますが、感染が肺の奥深くにある「肺胞」という組織にまで及ぶと、「マイコプラズマ肺炎」を発症します。これは感染症全体の中でも比較的頻度が高い肺炎であり、特に若い世代の市中肺炎(普段の生活の中で感染する肺炎)の主要な原因の一つです。一般的な肺炎球菌などによる肺炎が、黄色や緑色の痰を伴う湿った咳(湿性咳嗽)を特徴とするのに対し、マイコプラズマ肺炎は、痰の絡まない乾いた咳(乾性咳嗽)が長くしつこく続くのが特徴です。発熱は38度以上の高熱が出ることもあれば、微熱が続くこともあり様々です。咳は次第に激しさを増し、夜間に悪化して睡眠が妨げられたり、咳き込みすぎて胸や背中に筋肉痛のような痛みを感じたりすることもあります。全身の倦怠感も強く、食欲不振に陥ることも少なくありません。診断を確定するためには、聴診や血液検査に加え、胸部X線(レントゲン)撮影が不可欠です。レントゲン写真では、肺に淡く、すりガラスのような陰影が広がって見えることが多く、時にそれは「非定型肺炎」の典型的な画像所見とされます。呼吸状態をより詳しく評価するために、血液中の酸素飽和度(SpO2)の測定も行われます。マイコプラズマ肺炎と診断された場合、治療は外来での抗生物質の内服が基本となります。しかし、呼吸が苦しい、血液中の酸素濃度が低い、水分や食事が全く摂れず脱水状態にある、あるいは高齢者や持病がある方など、重症化のリスクが高いと判断された場合には、入院が必要となります。入院治療では、抗生物質の点滴投与や、酸素吸入、点滴による水分・栄養補給などが行われます。適切な治療を行えば、通常は1〜2週間で回復に向かいますが、咳などの症状は数週間にわたって残ることもあります。稀ではありますが、重症化して呼吸不全に陥るケースや、後述する様々な合併症を引き起こすこともあるため、咳が悪化し、息苦しさや胸の痛みを感じるようになったら、直ちに内科や呼吸器内科を受診することが絶対に必要です。