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マイコプラズマの正しい診断方法、検査の種類と意味を理解する
マイコプラズマ感染症の診断は、実はそれほど簡単ではありません。なぜなら、初期症状が他の多くの風邪や気管支炎と非常によく似ており、特有の決定的な症状に乏しいからです。そのため、医師は患者さんの症状や流行状況を考慮しながら、いくつかの検査を組み合わせて総合的に診断を下します。どのような検査があり、それぞれがどのような意味を持つのかを理解しておきましょう。まず、クリニックなどで手軽に行われるのが「迅速診断キット」による検査です。喉の奥を綿棒でこすって検体を採取し、15分程度でマイコプラズマの抗原の有無を調べます。手軽で早いのが利点ですが、その感度や特異度は完璧ではなく、感染していても陰性(偽陰性)に出たり、逆に感染していないのに陽性(偽陽性)に出たりすることもあります。あくまで診断の補助的な位置づけであり、特に日本では保険適用の条件が限られているため、全ての医療機関で自由に行えるわけではありません。最も確実な診断法とされているのが、血液中の抗体を調べる「血清抗体価測定」です。マイコプラズマに感染すると、体はそれに対抗するための抗体を作り出します。この抗体の量を測定するのです。特に、感染初期の「急性期」と、症状が回復してきた2〜4週間後の「回復期」の2回採血し、その間に抗体の量が4倍以上に著しく上昇していることを確認する「ペア血清法」が診断のゴールドスタンダードとされています。しかし、結果が出るまでに時間がかかるため、治療開始の判断には間に合わないという欠点があります。肺炎が疑われる場合には、「胸部X線(レントゲン)撮影」や、より詳細な評価のために「胸部CT検査」が行われます。マイコプラズマ肺炎では、肺に淡く広がる「すりガラス状陰影」が特徴的な所見として認められることがあります。近年、診断技術として注目されているのが「遺伝子検査(PCR法など)」です。喉のぬぐい液や痰に含まれるマイコプラズマの遺伝子そのものを検出する方法で、非常に感度が高く、感染初期から診断が可能です。ただし、まだ実施できる医療機関が限られているのが現状です。これらの検査結果を、患者さんの症状の経過や診察所見と照らし合わせ、医師は総合的にマイコプラズマ感染症の可能性を判断し、治療方針を決定しているのです。
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大人のしつこい咳、内科・呼吸器内科の役割
マイコプラズマ感染症は「子どもの病気」というイメージが強いかもしれませんが、もちろん大人も感染します。大人が感染した場合、子どもよりも症状が重く出たり、肺炎へと進行する割合が高かったりすることもあり、注意が必要です。風邪だと思って市販薬で様子を見ていたら、いつまでも咳が止まらず、次第に体力を消耗していく、というケースも少なくありません。大人がマイコプラズマ感染症を疑う場合、受診すべきは「内科」、特に咳や痰、息切れといった呼吸器症状が中心であれば、より専門的な「呼吸器内科」が適しています。呼吸器内科を受診する大きなメリットは、マイコプラズマ以外の、似たような症状を引き起こす様々な呼吸器疾患との鑑別を正確に行える点にあります。大人の長引く咳の原因は多岐にわたります。例えば、同じくしつこい咳を特徴とする「百日咳」、アレルギーが関与する「咳喘息」、喫煙者に多い「COPD(慢性閉塞性肺疾患)」、さらには「結核」や「肺がん」といった重大な病気の可能性も常に考慮しなければなりません。呼吸器内科医は、これらの病気を見分けるための専門知識と経験を持っています。診察では、詳細な問診(喫煙歴、職歴、アレルギー歴など)と聴診に加え、胸部X線(レントゲン)撮影や、より詳しく肺の状態を調べるためのCT検査、肺活量などを測定する呼吸機能検査が行われます。診断のためには血液検査でマイコプラズマ抗体を測定したり、喀痰(かくたん)検査で原因微生物を特定したりすることもあります。治療法は、子どもと同様にマイコプラズマに有効な抗生物質が基本となりますが、大人では子どもへの使用が制限される「テトラサイクリン系」や「ニューキノロン系」といった種類の抗生物質も選択肢となり、マクロライド耐性菌が疑われる場合でも効果的な治療が期待できます。咳止めや解熱剤などの対症療法も併用し、つらい症状を和らげます。たかが咳と侮らず、2週間以上続く場合は、専門医のもとで正しい診断を受け、適切な治療を開始することが、合併症を防ぎ、社会生活へ早期に復帰するための鍵となります。
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頻尿の悩み解決へ導く診断と治療のアプローチ
「水を飲むとすぐ尿が出る」という悩みを抱えて医療機関を受診した場合、医師はまず丁寧な問診から診断へのアプローチを開始します。いつから症状があるのか、一日の排尿回数や一回あたりの尿量、夜間に何回起きるか、尿意切迫感や痛み、残尿感の有無、既往歴や服用中の薬、普段の水分摂取の状況など、詳細な情報が診断の重要な手がかりとなります。より客観的な情報を得るために、「排尿日誌」の記録をお願いされることもあります。これは、2~3日間にわたり、いつ、どれくらいの量の飲み物を飲み、いつ、どれくらいの量の尿が出たかを時間ごとに記録するもので、頻尿の程度やパターンを正確に把握するために非常に有効です。次に行われるのが尿検査です。尿中の糖やタンパク、血液の有無、細菌の存在などを調べることで、糖尿病や腎臓の病気、尿路感染症などの可能性をスクリーニングします。さらに、超音波(エコー)検査で、膀胱や腎臓、男性であれば前立腺の形や大きさ、がんや結石の有無、そして排尿直後の膀胱内にどれくらい尿が残っているか(残尿量)を測定することもあります。これらの基本的な検査で原因が特定できない場合や、より詳細な評価が必要な場合には、尿の勢いを測定する尿流測定検査や、膀胱にカテーテルを入れて機能や知覚を調べる膀胱内圧測定検査、膀胱内を直接カメラで観察する膀胱鏡検査といった専門的な検査が行われることもあります。診断が確定すると、その原因に応じた治療が開始されます。過活動膀胱であれば行動療法や薬物療法、前立腺肥大症であれば薬物療法や手術、間質性膀胱炎であれば食事療法や膀胱水圧拡張術など、治療法は多岐にわたります。大切なのは、正確な診断に基づいて、一人ひとりの状態に合った治療計画を立てることです。気になる症状があれば、まずは専門医に相談し、適切な診断プロセスに乗ることが解決への第一歩となります。
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男性特有の頻尿の原因、前立腺のトラブルを疑う
中高年の男性において「水を飲むとトイレが近くなる」「夜中に何度もトイレに起きる」という症状がある場合、加齢に伴い多くの人が経験する「前立腺肥大症(BPH)」が原因となっている可能性が考えられます。前立腺は、男性の膀胱の真下に位置し、尿道を取り囲むように存在するクルミほどの大きさの臓器です。この前立腺が年齢とともに徐々に肥大してくると、内側を通る尿道を物理的に圧迫したり、膀胱を刺激したりして、様々な排尿トラブルを引き起こします。これを総称して下部尿路症状と呼びます。症状は大きく分けて二種類あります。一つは、尿道を物理的に圧迫することによる「排出症状」で、尿の勢いが弱い、尿が出始めるまでに時間がかかる(遷延性排尿)、排尿が途中で途切れる(間欠性排尿)、力を入れないと尿が出にくい、排尿後に尿が漏れる(終末時滴下)、残尿感がある、といった症状です。もう一つは、肥大した前立腺が膀胱を刺激することで生じる「蓄尿症状」です。これにより膀胱が過敏になり、十分に尿が溜まっていなくても強い尿意を感じるようになります。その結果、トイレの回数が増える(頻尿)、急に我慢できない尿意が起こる(尿意切迫感)、夜中に何度もトイレに起きる(夜間頻尿)といった症状が現れるのです。水を飲むと比較的早く尿意を感じるのは、この蓄尿症状の現れと言えます。前立腺肥大症は良性の疾患であり、がんとは異なりますが、放置すると生活の質(QOL)を著しく低下させるだけでなく、尿が全く出なくなる「尿閉」や、腎機能障害を引き起こすこともあります。治療は、薬物療法が中心で、尿道の圧迫を緩めるα1遮断薬や前立腺を小さくする5α還元酵素阻害薬などが用いられます。症状が重い場合には、手術も選択肢となります。50歳を過ぎた男性で頻尿に悩んでいる場合は、年のせいだと諦めずに、一度泌尿器科で相談することが推奨されます。
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我慢できない尿意を引き起こす過活動膀胱とは
水を飲んでからすぐに、急に我慢できないほどの強い尿意に襲われる。時にはトイレまで間に合わず、漏らしてしまうこともある。こうした症状に悩まされている場合、「過活動膀胱(OAB)」という病気の可能性があります。過活動膀胱は、膀胱に尿が十分に溜まっていないにもかかわらず、膀胱の筋肉(排尿筋)が本人の意思とは関係なく勝手に収縮してしまう病態です。これにより、「突然訪れる、我慢できない強い尿意(尿意切迫感)」が最も特徴的な症状として現れます。多くの場合、日中に8回以上トイレに行く「頻尿」や、夜間に排尿のために1回以上起きる「夜間頻尿」を伴います。原因は完全には解明されていませんが、加齢に伴う神経系の変化や、脳卒中やパーキンソン病などの脳血管障害、脊髄損傷などが原因で、排尿をコントロールする神経の働きが乱れることが一因とされています。また、男性の場合は前立腺肥大症が原因となることも少なくありません。しかし、多くは明らかな基礎疾患がなく発症します。診断は、症状の詳しい問診や、排尿日誌の記録、尿検査、超音波検査による残尿測定などで行われます。治療の基本は、生活習慣の改善から始まります。具体的には、水分摂取のタイミングや量を調整する、利尿作用のあるカフェインやアルコールの摂取を控える、骨盤底筋を鍛えるトレーニング、そして膀胱に少しずつ尿を溜める習慣をつける「膀胱訓練」といった行動療法です。これらの方法で改善が見られない場合には、膀胱の異常な収縮を抑える抗コリン薬やβ3作動薬などの薬物療法が選択されます。我慢できない尿意は生活の質(QOL)を大きく下げるため、一人で悩まず専門医に相談することが解決への第一歩となります。