「ストレスで動悸がする」「緊張すると脈が飛ぶ」。このように、不整脈の症状と精神的なストレスが密接に関連していると感じている人は少なくありません。実際に、強いストレスは自律神経のバランスを乱し、心臓の働きをコントロールする交感神経を過剰に興奮させます。その結果、心拍数が増加し、血圧が上昇し、心臓に負担がかかることで、期外収縮などの不整脈が誘発されたり、感じやすくなったりすることがあります。また、突然の激しい動悸や息切れ、めまい、そして「このまま死んでしまうのではないか」という強い不安感に襲われる「パニック障害」の症状は、危険な不整脈の症状と非常に似ています。このため、「自分の動悸はストレスが原因だから、行くべきは心療内科や精神科だろう」と自己判断してしまうケースが見られます。しかし、この判断には大きな落とし穴が潜んでいます。動悸や息切れといった症状で医療機関を受診する際の絶対的な原則は、「まず循環器内科を受診し、命に関わる心臓の病気(器質的疾患)がないことを確認する」ことです。なぜなら、万が一、背景に治療が必要な不整脈や心臓病が隠れていた場合、それを精神的なものだと思い込んで放置してしまうと、取り返しのつかない事態に繋がりかねないからです。循環器内科では、心電図やホルター心電図、心エコーなどの検査を行い、心臓に形態的・機能的な異常がないかを徹底的に調べます。その上で、心臓には明らかな問題が見つからず、それでも症状が改善しない、あるいは症状に強い不安感が伴うといった場合に、初めて「心因性」の可能性が考慮され、心療内科や精神科への受診が選択肢として挙がってくるのです。心療内科では、カウンセリングや、不安を和らげる薬(抗不安薬)、自律神経のバランスを整える薬などを用いて治療が行われます。実際には、心臓疾患を持つ患者さんが不安障害を合併することも多く、その場合は循環器内科と心療内科が連携して治療にあたることもあります。心と体は密接に繋がっています。しかし、症状の原因を切り分けるためには、まず体の専門家である循環器内科の診察を受ける、という正しいステップを踏むことが何よりも重要です。
不整脈とストレス、心療内科との正しい付き合い方