下まぶたに、痛みは全くないにもかかわらず、指で触れるとコリコリとした小さなしこりができていて、数週間、あるいは数ヶ月経っても一向に消える気配がない。そんな症状に心当たりがある場合、それは「霰粒腫(さんりゅうしゅ)」と呼ばれる病気かもしれません。一般的に「ものもらい」として知られ、痛みを伴う「麦粒腫」が黄色ブドウ球菌などの細菌感染によって引き起こされるのに対し、霰粒腫は細菌とは直接関係のない、いわば物理的なトラブルが原因です。まぶたの縁には、涙の油分を分泌して目の表面の乾燥を防ぐ「マイボーム腺」という器官が上下に数十個ずつ並んでいます。このマイボーム腺の出口が何らかの理由で詰まってしまうと、分泌されるべき脂が腺の内部に溜まって固まり、その結果、異物に対する体の防御反応として肉芽腫(にくげしゅ)というしこりを形成するのです。出口が詰まる原因は、脂の性状の変化や体質、ホルモンバランスの乱れ、不規則な食生活、加齢などが考えられています。主な症状は、まぶたの腫れぼったさや異物感、そして指で触れることで確認できるしこりであり、通常、麦粒腫のような強い赤みや痛みは伴いません。しかし、しこりが大きくなると、角膜を圧迫して乱視の原因になったり、美容的な問題になったりすることもあります。また、この無菌性のしこりに後から細菌が感染してしまうと「急性霰粒腫」という状態になり、麦粒腫と同じように赤く腫れあがり、痛みを引き起こすことがあります。霰粒腫は、しこりが小さければ自然に体内に吸収されて治癒することもありますが、数週間から数ヶ月という長い期間を要することも珍しくありません。治療法としては、まず抗炎症作用のあるステロイドの点眼薬や軟膏が用いられます。しこりが大きい場合や薬物療法で改善しない場合には、しこりに直接ステロイドを注射する方法も選択されます。それでも改善が見られない頑固なしこりに対しては、局所麻酔下でまぶたの裏側などを小さく切開し、溜まった内容物を掻き出す外科的な処置(霰粒腫摘出術)が必要となる場合もあります。痛みがなくても放置せず、まずは眼科で正確な診断を受けることが重要です。