耳鼻咽喉科の診察室で日々患者さんと向き合っていると「耳掃除は毎日するのが正しい」という誤った常識がいかに多くの耳のトラブルを引き起こしているかを痛感します。結論から申し上げますが健康な人間にとって耳掃除は月に一度あるいは二ヶ月に一度で十分であり多くの場合は一生一度も自分で行わなくても耳は正常に機能するようにできています。耳垢というものは決して「汚いゴミ」ではなく皮膚を保護し殺菌作用によって外耳道を清潔に保つための重要な分泌物です。これを根こそぎ取り除こうとする「しすぎ」な行為は自ら防衛軍を解散させているようなものです。適切なケア方法としてまず知っておいていただきたいのは耳かきや綿棒を耳の穴の奥まで入れるのは厳禁だという点です。耳垢は入り口付近でしか作られませんから奥を触る必要はそもそもありません。もし掃除をするのであれば細い綿棒を使い耳の穴の入り口から一センチ程度の範囲を優しくなぞるだけに留めてください。ゴシゴシと擦るのではなく円を描くように一、二回回すだけで十分です。特に注意が必要なのがお風呂上がりの濡れた状態での耳掃除です。水分を含んだ皮膚は非常に柔らかくなっておりわずかな摩擦でも容易に剥がれ落ちてしまいます。湿った綿棒で耳垢を動かそうとするとかえって耳垢を奥へと押し込んでしまい鼓膜に貼り付けてしまうリスクが高まります。お子さんの耳掃除をされる親御さんにもアドバイスがありますが子供の耳は大人以上に自浄作用が活発です。耳の入り口に見えている分だけをそっと取り除くかあるいは数ヶ月に一度耳鼻科で「耳掃除だけ」のために受診していただくことを強くお勧めします。プロの手による耳掃除は顕微鏡下で専用の器具を使い安全かつ確実に耳垢を取り除けるため家庭での事故を防ぐことができます。耳が痒いと感じる時は皮膚が乾燥しているサインであることが多いため掃除をするよりも医療機関で適切な軟膏を処方してもらう方が根本的な解決になります。耳掃除の「しすぎ」は自分自身で難聴やめまいの火種を作っていることに他なりません。耳を愛するならあえて何もしないという選択肢を持つこと。それが生涯にわたって良好な聴覚を維持するための最も賢明なケアなのです。
耳鼻科医が教える耳掃除の頻度と適切なケア方法