私たちのまぶたは、ただ目を覆って保護しているだけの単純な皮膚ではありません。その薄い皮膚の下には、目の健康を守るための非常に精巧で複雑な仕組みが備わっています。そして、「ものもらい」は、このまぶたの精密なシステムに何らかの不具合が生じた時に発生するトラブルなのです。まぶたの構造から、ものもらいができるメカニズムを紐解いていきましょう。まず、まぶたの縁、まつ毛が生えているあたりをよく観察してみてください。ここには、私たちの目にとって重要な役割を果たす、いくつかの分泌腺が存在します。その代表格が「マイボーム腺」です。これは、上下のまぶたに数十個ずつ並んでいる器官で、涙がすぐに乾いてしまわないように、油層の役割を果たす脂を分泌しています。このマイボーム腺の出口、あるいは腺そのものに細菌が感染し、急性の化膿性炎症を起こしたものが「内麦粒腫」と呼ばれるタイプのものです。まぶたの少し深い部分が腫れるのが特徴です。一方、まつ毛の毛根部分には、「ツァイス腺」や「モル腺」という、汗や脂を分泌する小さな腺があります。これらの腺に細菌が感染して炎症を起こしたものが「外麦粒腫」です。こちらはまぶたの比較的浅い部分、縁に近いところが赤く腫れるのが特徴です。一般的に「ものもらい」という場合、この外麦粒腫と内麦粒腫の両方を指します。どちらも、原因は黄色ブドウ球菌などの細菌が、これらの腺の管を逆流するように侵入し、内部で増殖することです。腺の中は栄養が豊富で温かいため、細菌にとっては格好の繁殖場所となります。細菌が増殖すると、私たちの体の免疫システムがそれを察知し、白血球などの免疫細胞を送り込んで戦いを始めます。この戦いの結果として起こるのが、「赤み」「腫れ」「熱っぽさ」「痛み」といった炎症反応です。そして、戦いで死んだ細菌や白血球の死骸が膿となって溜まり、まぶたの腫れをさらに大きくするのです。このように、ものもらいは、まぶたに備わった小さな器官のトラブルが原因で起こる、体内のミクロな戦いの結果なのです。