膝や腰の痛みと同じくらい、臨床現場で相談が多いのがかかとの後ろのトラブルです。多くの患者さんが、かかとの後ろが痛い原因を骨の異常だと考えがちですが、理学療法士の視点から言えば、それは「足部と下腿の連動性」が崩れた結果、アキレス腱の付着部に過剰なストレスが集中している状態です。かかとの後ろが痛い原因を根本から解決するためのセルフケアにおいて、まず最優先すべきは、ふくらはぎの筋肉、特にヒラメ筋と腓腹筋の柔軟性を確保することです。これらの筋肉はアキレス腱となってかかとに繋がっていますが、デスクワークや運動不足でここが短縮して固まると、歩行中にかかとが地面から離れる瞬間に、強烈な牽引力が踵骨後面に加わります。これを防ぐための最も効果的なストレッチは、段差を利用したカーフレイズの「下ろす動き」です。階段などの段差につま先だけを乗せ、かかとをゆっくりと下に沈み込ませて五秒間キープします。この時、膝を伸ばした状態と、少し曲げた状態の両方で行うことで、表面の腓腹筋と奥のヒラメ筋の両方を効率よく伸ばすことができます。また、足の指の筋力不足も、かかとの後ろが痛い原因に関係しています。足の指で地面をしっかりと掴めない人は、蹴り出しの際にアキレス腱に頼りすぎる傾向があるため、タオルギャザー(床に置いたタオルを足の指で手繰り寄せる運動)で足裏の固有筋を鍛えることが推奨されます。さらに、日常の靴環境を見直すアドバイスとして、ヒールリフトという小さなシリコン製のパッドを靴の中に入れることを提案します。かかとをわずかに数ミリ高くするだけで、アキレス腱の緊張が劇的に緩和され、付着部への負担を即座に減らすことができます。セルフケアを実践する際の注意点としては、痛みが強い急性期に無理に伸ばそうとしないことです。熱感や腫れがある時はまずアイシングを行い、安静を保つのが基本です。痛みが「鈍い重さ」に変わってきた段階から、徐々にストレッチを開始するのが快復を早めるコツとなります。かかとの後ろの痛みは、放置すればアキレス腱の石灰化や永久的な骨の隆起を招く恐れがあります。自分自身の身体の構造を理解し、日々のちょっとした動きで「巡り」と「伸び」を整えてあげること。それこそが、プロの理学療法士が推奨する、生涯現役で歩き続けるための最高の処方箋となるのです。