「貧血」という言葉は、日常的に使われるため、つい「少し鉄分が足りないだけだろう」と、軽く考えてしまいがちです。しかし、医学的には、貧血はそれ自体が「病名」ではなく、体のどこかで起きている異常の結果として現れる「症状」の一つに過ぎません。そして、その背後には、時に、命に関わるような、深刻な病気が隠れている可能性があることを、私たちは決して忘れてはなりません。病院で貧血の原因を徹底的に突き止めることの重要性は、ここにあります。貧血の大多数を占める「鉄欠乏性貧血」の原因として、最も警戒すべきなのが、胃や腸といった「消化管からの慢性的な出血」です。本人は全く自覚していなくても、胃潰瘍や十二指腸潰瘍、あるいは「胃がん」や「大腸がん」といった悪性腫瘍から、毎日ごく微量の出血が続くことで、体内の鉄分が徐々に失われ、貧血が進行していくのです。特に、中高年の男性や、閉経後の女性で、鉄欠乏性貧血が見つかった場合は、まず第一に、これらの消化管の病気を疑う必要があります。便に血が混じっていないかを調べる「便潜血検査」や、直接、消化管の内部を観察する「胃カメラ」「大腸カメラ」といった検査が、これらの怖い病気の早期発見に、極めて重要な役割を果たします。また、貧血の原因は、鉄分の不足だけではありません。例えば、赤血球を作るために不可欠な「ビタミンB12」や「葉酸」が不足することで起こる「悪性貧血」は、胃の切除手術を受けた人や、極端な菜食主義者に見られることがあります。また、血液を作り出す工場である「骨髄」そのものに異常が起き、正常な血液細胞が作れなくなってしまう「再生不良性貧血」や「白血病」といった、血液の難病も、貧血を初期症状とすることがあります。さらに、腎臓の機能が低下する「慢性腎臓病」では、赤血球の産生を促すホルモンが不足するため、「腎性貧血」という状態になります。このように、貧血という一つの症状の裏には、消化器系のがんから、血液の難病、腎臓の病気まで、実に様々な、そして怖い病気が隠れている可能性があるのです。たかが貧血と侮らず、病院でその原因をしっかりと調べてもらうこと。それが、あなたの体を、そして命を守るための、最も大切な一歩となるのです。
ただの貧血じゃない?隠れている怖い病気