今回の事例研究では主治医の意見書に事実と異なる記載があったことが原因で実態よりも著しく低い要介護認定を受けた八十代女性のBさんのケースを取り上げます。Bさんは重度の認知症があり夜間の不穏や激しい物忘れさらには失禁といった周辺症状が顕著でしたが認定の結果は要支援一というほとんど介助を必要としない区分でした。家族は愕然とし自治体から送られてきた一次判定の結果を確認したところ医師の意見書に認知機能の低下は軽微であり意思疎通に支障なしと記されていたことが判明したのです。Bさんの家族がまず行ったのは判定結果が出た翌日に主治医を訪ねなぜそのような記載になったのかを確認することでした。医師は診察室での対話には問題がなかったためそのように判断したと説明しましたが家族が撮影した自宅での徘徊の動画や毎日つけていた排泄の記録を提示したところ医師は自身の認識不足を認め深く謝罪されました。しかし一度確定した認定結果を覆すには法的な手続きが必要となります。ここで家族は都道府県の介護保険審査会に対して不服申し立て審査請求を行うという険しい道を選択しました。この歩みの中で大きな助けとなったのは地域包括支援センターの社会福祉士と新しく担当になったケアマネジャーのアドバイスでした。不服申し立てには時間がかかるため並行して区分変更申請を行うという戦略をとったのです。区分変更申請は状態が急変した際に有効期間内であっても再審査を求める制度ですが今回のように初期のデータに不備があった場合のリセットボタンとしても機能します。再度の申請にあたり家族は主治医に対し今度はリハビリ専門職の評価も加味した詳細なデータの提供を依頼しました。医師も今度は家族からのメモをすべて読み込み一字一句を慎重に吟味して意見書を作成し直しました。再審査の結果三ヶ月後に届いた通知は要介護三でした。これによりBさんは念願だった特別養護老人ホームへのショートステイや専門的な認知症ケアを受けられるようになりました。この事例が教える重要な教訓は介護認定を受けるには一度の結果に絶望してはいけないということです。そして医師の意見書に間違いがあればそれを指摘し修正を求めることは患者としての正当な権利であるという点です。もちろん最初から正確な意見書を書いてもらうのがベストですがもし不一致が起きたとしても日本の制度には修正の機会が用意されています。家族の粘り強い観察と専門家を巻き込んだ論理的な交渉が歪んだ判定を正し本人の尊厳を守り抜くことに繋がった成功事例と言えるでしょう。諦めずに声を上げることが適切な介護環境への扉を開く鍵となるのです。
意見書の内容が実態と乖離した際の修正と再申請の歩み