「急性期病院の診察室は、毎日が戦場です」と、ある地域の中核を担う総合病院の当直医は語り始めました。私たち急性期を担う医師の使命は、運ばれてきた患者の「命の火」を消さないこと、そして、その後の人生に深刻な後遺症を残さないための最善の初期介入を行うことにあります。例えば、心筋梗塞や脳卒中の患者さんが運び込まれた際、私たちの頭の中にあるのは、検査数値を読み解きながら、一秒でも早く血管を再開通させるための術式を決定し、実行することだけです。そこには情緒に流される余裕はありません。冷徹なまでの判断力が、患者さんの未来を分けるからです。しかし、多くの患者さんやご家族からは、私たちの対応が「事務的だ」とか「すぐに退院を急かされる」と不満を持たれることもあります。ここで知っていただきたいのは、急性期病院という場所は、日本の医療ピラミッドの頂点に位置する「高コスト・高機能」の施設であるということです。ここでの一日は、リハビリ病院や在宅療養での数週間分に相当する医療資源が投入されています。私たちは、患者さんが峠を越えたと判断した瞬間から、次の「命の火」を救うためにベッドを空ける準備を始めなければなりません。これが、地域全体の救命率を維持するための鉄の掟なのです。医師としての苦渋の決断は、まだ自力で歩けない患者さんに、次のステージへの移動を促すときです。しかし、医学的なデータによれば、急性期の激しい治療環境に長く留まるよりも、静かな環境で専門的なリハビリを受けるほうが、人間の脳や筋肉は効率よく回復することが分かっています。つまり、転院を促すことは、決して患者を見捨てることではなく、最も回復効率の高い環境へと送り出すという、治療計画の重要な一環なのです。インタビューの中で医師が強調したのは、急性期病院における「情報の透明性」です。私たちは、短期間で劇的な変化を遂げる患者さんの状態を、できるだけ正確に、包み隠さずご家族に伝えようとしています。ご家族には、その厳しい現実を直視しつつ、私たちの医学的な判断を信じて、次のステップへの協力をしていただきたい。急性期病院は、決してゴールではありません。そこは、長い快復への旅路の「スタートゲート」なのです。私たちが全力でゲートを開け、背中を押し出したら、そこからはリハビリの専門家やご家族がバトンを受け取ってください。それぞれの役割が完遂されたとき、初めて一人の人間が社会へと帰還できる。それが、私たちが命の最前線で信じている唯一の真実です。
命の最前線で戦う急性期病院の現場医師が語る真実